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ガーデン・ロスト 紅玉いづき [メディアワークス文庫] [本]

――今この時の、私の全力で書き切った「彼女達」です。

と、作者があとがきで書かれた通り、内容の濃い、黒い心をそのままさらけだした、生きのいいとびきりの書でした。

主要登場人物は放送部の4人。
誰にでも優しいお人よしのエカ、漫画キャラや俳優をダーリンと呼ぶマル、男装が似合いそうなオズ、毒舌家でどこか大人びてるシバ。青春群像と呼ぶには黒すぎる、人の弱さをそれぞれの胸に抱えながら、時に立ち向かい、時に弱音を吐き、誰とのない誰かに助けを求める。

エカは架空の男の子に、文通相手の空想の幻の男の子に恋してる子。
優しくされたい、好かれたい、だから嘘でもよかった。そんな自分を蔑むけど、それでも優しくされたいと・・・。

マルは不憫な子だった。
チョコレートのような黒い血が流れてるというマル。親が離婚して、嫌いな、いや、嫌いとも思わないほど嫌な親父と一緒に住み、抱きしめて、頭をなでて優しくされたかったマルは好きでもない人と肌を合わせる。

オズは小さい頃にスカートをからかわれてから、自分の女を否定してた。
そんな自分に、付き合ってあげれそうな人を演じてた。

シバはお母さんに愛されたかった。
だから、すべては学歴というお母さんの言うままに、勉強をしてきた。親の失望されぬように懸命になればなるほど、周りの出来事は苛立たしく・・・。



すごい! 4章一人ひとりのこころの裸を晒したむきだしの叫びを感じる! 
マルが初めて気づく本当の恋。その心境の変化が目に浮かぶ! 

 ジュンと呼んだシバちの声や、その気持ちも、水滴に濡れた高良のかみ、あの夜のことと、これまでのこと。これから始まるなにかのこと。
 そしてもう離れてしまった、手首の熱が。
 あたしの絶望を加速する。
 神様、と思った。なんの神様でもいい。恐怖の大魔王でもいい。織姫でも彦星でも! 七夕の短冊にでも書いておけばよかった。
 もうどこにも後戻りできない。もうどこにもかえれない。それなのに、願って、しまった。
 ねぇ、あたし、こんなに、チョコレート色の血をしてるのに。
こんなところで、こんな風に、生まれてはじめて。
――人を好きになんて、なりたくなかった。     <3章 チョコレートブラッド 123P>

彼女達の痛いほどの感情が読み手を魅了して、読み耽ってしまう。
感動も、温かさもない話ではあるものの、この頃経験する、苦悩や悟ることこそが貴重なもはや失った花園だったんだと、歴史書をなぞる楽しさを感じた。

ぜひ、手に取ってみていただけたらと、思う本でした。
☆4つ


                    
ガーデン・ロスト (メディアワークス文庫)

ガーデン・ロスト (メディアワークス文庫)

  • 作者: 紅玉 いづき
  • 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
  • 発売日: 2010/01/25
  • メディア: 文庫


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